SMARD v.s. 椿
UMB2017 一回戦 佐賀代表 SMARD v.s. 福岡代表 椿
今回はUMB2017 GRAND CHAMPIONSHIPの一回戦からこちらのバトルを取り上げたいと思います。
[SMARD]
歓声の感じからして俺のことは誰も知らないらしい
Yo 今日で知れてよかったな
って思わすような俺rapするから
間違いない 俺はよ
福岡予選 用で出れなかったから
やっぱりここで どっちがヤバいか決めようや
親不孝の学び舎 互いに
叩き上げたmicrophone 同士ぶつける同志
俺が頂く勝利
[椿]
親不孝の学び舎 あたしが福岡代表だ
だけど黙りな まずはカナリヤ みたいにピーピーギャーギャー
コイツはかっこいいマイメン だけど未明の翼
羽ばたくブラックバード ストリート ローカル上げていこう
当たり前 でもレペゼンお前に譲れやしねぇよ
よく聞いとけ ただのメスじゃねぇ
お前も含めてぶちのめすだけ
男ども全員 ジェンダーレス 新たなカベ
2017 もうそろそろやめようぜ
これからの時代は
[SMARD]
ジェンダーレス?
性別いつも関係ないとか言ってるくせに
お前が一番気にしてんじゃねぇかよ
わかるか? 俺はそんなこと一言もいってねぇだろ
いちMCとしてぶち殺しに来たんだよ
分かってねぇな 前評判とか
すべて覆すのが俺のHipHopなのさ
Yo 過去もすべて 俺は踏めて
俺のmicrophone
リアル代表 逃げる気ないぞ
[椿]
前評判覆す? 当たり前の話だろ
10年前は 私が勝つことも夢のように語られてたんだよ
でも無理じゃなかった
だから勝った ここに立った
絶対にここで負けてたまるか
I’m a Queen of UMB
その日まで 「小粒でピリッと」 別に構わねぇ
でもあまりに取り柄が無さすぎて
あだ名も付けられねぇだろ
困ってんだよ 東京
お前じゃ言えねぇよ
まずは物販で自分の作品並べて物言えよ
概要
8小節2本
勝者: 椿
解説
UMB2017 一回戦 佐賀代表 SMARD v.s. 福岡代表 椿
今回はUMB2017 GRAND CHAMPIONSHIPの一回戦からこちらのバトルを取り上げたいと思います。
福岡代表の椿、女性では史上初のUMB本選出場となりました。相手は同じく九州のSMARD、こちらも初出場です。
個人的には椿が本選で見られることがかなり嬉しく、彼女がどこまで勝ち上がれるがという点はこの大会の見どころのひとつに思って見ていました。
さて試合の方ですが、冒頭SMARDのこの一節が物語っている通り、同じく福岡をrepするMC同士ながら、その知名度やプロップスには雲泥の差があるところからスタートしており、SMARDにとっては半ばアウェイ戦のような格好となっていました。
ただしそのことをそのままdisの材料にせず、「(福岡のMCとして)どっちがヤバいか決めようや」と、椿に対してあくまでも自分のrap一本で真っ向勝負を挑んでいく姿勢には好感が持てました。
椿は椿で愚直で熱いスタイルなのですが、SMARDもそれに負けず劣らず、一本気なタイプのMCという印象ですね。
対して後攻1本目。いよいよ椿のバース。
まずはこのライン。「親不孝の学び舎」という相手の言葉から「黙りな」とライミングで受けてdisへ転じていきます。
特にこの「黙りな」の部分は、拍にもピッタリとハマっていて、会場を耳目を一瞬で釘付けにするかように、椿のrapに引き込んでいく印象でした。個人的にはこの瞬間の椿が最高にカッコよかったです。
また、福岡出身ながら佐賀代表としてステージに立つSMARDに対して、「あたしが福岡代表だ」とにべもなく突きつけていくところもいいですね。10年超というキャリアが物語る通り、そのrapからはさすがの貫禄を感じますね。
続いてこちらのライン。これはもう椿のスタイルや想いが前面に出た渾身の一発という感じで、気持ちの乗った一節に会場も大きく沸き立ちました。
ちなみに椿のジェンダーに対する考え方は以下のインタビュー記事を参考リンクとして紹介しておきます。
「フリースタイルダンジョン」でシーンのミソジニーを喝破したラッパー・椿の“人生を使ったカウンター” | WEZZY
女性MCとして見られることを嫌い、ただただ一人のMCとして挑戦する姿勢が強く感じられる内容になっています。
しかしリンク元の記事でも触れられている通り、本試合では司会に「フィメール」と、そしてナレーションでは「紅一点」と紹介されていた辺り、まだまだ椿の目指す世界にはなっていないようです。
貧困やジャーナリズム、法律、そしてジェンダー論など、HipHopは歴史的にも政治的な主義・主張と親和性の高いカルチャーということもあり、椿のスタイルや発言は今大会出場MCの中でも群を抜いてHipHop的ではないかと思います。
対戦相手のミソジニー発言をはね退け、ひたすらに突き進む姿を見ていると応援したくなる気持ちもよく分かりますね。
続いてSMARDの2本目。先ほどの椿に対してこちらもかなり筋のいいアンサー。
確かに彼自身はジェンダーに絡めた発言をしておらず、続く「いちMCとしてぶち殺しに来たんだよ」は先ほど紹介した椿の主義にも適っていることが分かります。
そしてぜひ紹介したいのがこちらの一節で、これは冒頭で発言していた試合前の知名度・プロップスの差を覆す、というSMARD自身のことを表現したラインであると同時に、椿の至上命題であるシーンにおけるジェンダーレス、性差別を覆すという内容も絡めたダブルミーニングになってます。
つまりこれは同じ福岡のマイメンである椿へ向けたエールとも受け取れるわけですね。そのことを踏まえてもう一度SMARDのバースを振り返れば、椿の主張を受け止めた上で、半ば諭すように彼女のマインドセットと対話しているようにも受け取れる気がしてきます。
つまりSMARDがめちゃくちゃイイ奴に見えてくるわけです。こうしたやり取りのおかげで、ダークでおどろおどろしいビートだったにも関わらず、内容としてはむしろ清々さのある試合展開に感じられていくのです。
そして最後椿。当然こちらもSMARDの発言に同調していくのですが、椿はここからが良かった。
過去と対比させつつも「でも無理じゃなかった だから勝った ここに立った」と本選の舞台に立つ現状をリズムのある言葉で表現した上、「I’m a Queen of UMB」という一節でピークを作り出し、さらに会場をアゲていきます。
この「Queen」という表現については、これはもうひとつのイディオムのようなものだと解釈すべきでしょう。genderとは別に、sexとしての女性性を受容しているからこそこうした表現も自然に出てくるのだと思います。
続いてこちら。この試合で椿がよかったのは性別の話題一辺倒には決してならなかったところでしょう。
これは試合前SMARDの紹介ナレーション「小粒だがピリリと辛い」を話題にしたもので、一般的なことわざを記載するにとどまったことを揶揄しているわけですね。
愚直に相手の発言を受け止めつつアンサーしていたSMARDに対して、椿の方は容赦なく刺しにいってる感じです。
そして最後、ここは個人的にかなりのパンチラインではないかと思ってます。
多数の客演や自身の音源リリースなど、MCとしてキャリアで言えば椿の方に分がある感じなんですが、それがそのままこの発言の説得力に出ているかのようです。
ここまで見てきて、やはり椿は福岡を背負って立つ代表に相応しいMCなのだという印象を受けました。ジェンダー云々を抜きにして、rapスキルを始めとして、主張の強度や巧妙なパフォーマンスなど、MCとしての地力でSMARDを上回っていた感じです。
それに加えて、発言は熱いですがrapの回し方は非常に冷静で、場慣れしている分だけパフォーマンスが全然落ちていなかった印象も強いです。
大会に際しては史上初の女性ということで盛り上がっていましたが、普通に強いMCとして予選を勝ち上がった結果がそのままこの本選の試合にも表れていたという感じでしょうか。
そんなわけで勝ったのは椿、個人的にかなり嬉しい結果でした。会場にも応援していた人は多かったと思います。