輪入道 v.s. TK da 黒ぶち
THE罵倒2012 FINAL 輪入道 v.s. TK da 黒ぶち
少し古い大会ですが今回はTHE罵倒 2012 GRAND CHNAPIONSHIPから。決勝戦を紹介したいと思います。
この試合は個人的にベストバウト中のベストバウトで、おそらく一般的な人気で言っても日本のMCバトル史上5指に入るほどの名勝負ではないかと思います。
[輪入道]
がっつり聞いとけよ 16小節
DJ NOBU a.k.a BOMBRUSH!
I’m a 輪入道 on the mic,
Represent 44
043 コードナンバー 千葉
火花飛ばすのみさ トリガーに指が
かかってるのに引けねぇヤツはただの愚か者さ
言葉の刃が突き立てられたこめかみから
流れたその血をすすって俺はデカくなった
ラッパーになったのは17 あれは春休みのことさ
今から5年前 2007 yo
覚えてるだろ? REPRESENT MC BATTLEの
決勝で当たったのがオマエだよTK
見えてるモノがデカ過ぎてムカついたぜ
うなずかすことの難しさも気づいたぜ
グダグダのLIVEも繰り返してここまで来た
悪ぃが今夜も俺が…
[TK da 黒ぶち]
Represent 埼玉 春日部シティ
TK da 黒ぶち on da microphone
初めて握ったのは15の夜
あん時から変わってねぇ情熱
燃えたぎってるぜ俺も魂
忘れちゃいないオマエとの出会い
千葉BELT あのREPRISENT MC BATTLE
始まる前セブンイレブンの前でした握手
そして決勝でぶつかった
あん時はまだ俺もまだ甘かったと思う
だから改めて紹介 俺がTK da 黒ぶちだ
はじめまして 弾けるぜ言葉が
俺だって絶対オマエに負けねぇ
トリガーを引く準備ならできてる
でもそれは中指じゃねぇ
俺はちゃんとそこに人差し指をプラスする
でもそれはよ リスペクトをもった上でぶっ殺すってことだぜ
わかるだろ? オマエと当たるなんて余裕で想像済みだぜ
だけどなんも考えちゃいねぇ
今オマエの目を見て直感でしゃべってるだけだ この野郎
[輪入道]
俺だって直感でしゃべるだけだぜ
カンで勘違いしてる野郎の頭を叩き割ってデカくなったぜ
分かってるか 分かってねぇかなんて
その瞬間相手の目を見れば分かることだぜ
2本指 それは一番 俺もピースにしたいぜ
だけど俺は全部引っ込めて親指を立てるぜ
グッドサインだけで グッドラック飛ばすぜ
飛ばしてやる全ての くだらねぇカルマ
張るか張られるかしかねぇこんな人生
だけど負ける気なんて はなからねぇ人生不安定
クランケにされる必要 なんてねぇから秩序
も無いような世の中の中から 今日も実情
しゃべり続ける東京ストリート アンダーグラウンド
夜中になってもクソ汚ぇ歌舞伎町の
裏側でケンカしてるヤツの分も 背中にしょっちゃう
いや背負わねぇ 今日は遊ぶぜ
[TK da 黒ぶち]
遊ぶなよ マジでガチでぶつかり合おうぜ
オマエの笑顔 バトル中じゃ絶対見たくねぇ fuck yo
俺も拳ぶん殴られたって食らわすクロスカウンター
俺だってちゃんと守りたいものがあるんだ
オマエはどこをレペゼン? ストリートなのか?
俺は明日も7時から仕事なんだ
俺はそうやって働きながらrapしてるヤツもレペゼンしてる
Yo 埼玉 罵倒 予選一回戦から一回も手を抜いてねぇrapだ聞いとけ
Yo スペルならばTとK
1, 2回戦の話は正味 幻滅したが関係なく
俺も頭がよく分からない状況になってる
でも空っぽじゃねぇってことは確か
ここまで来たら 余計なことはナシだ
ただ単に本能でしゃべり狂うだけさ
だけどオマエの目は確実に冷静さも捉えてる
冷静と情熱の間 狭間 アンサー
そんなのは関係ねぇ 弾けるだけだ
[輪入道]
弾けるだけか? 弾けちまうだけか?
それじゃダメなんじゃねぇのか?
おい あん時17の俺 ただ下らねぇ俺
言われたアンタとそれじゃ何も変わらねぇ
違ぇんだよな 見てるものがな
ジレンマなんだよな 上に行きたくてさ
下らねぇんだよな 何もかもがさ
仕事も女もストリートもさ
だけど悪いことをしながらでも
夜の街 好奇心だけで飛び込んでいたとしても
そこに見えるものstay true
いつでも 誰かに捨て犬のように見られても
ベロを回すことを止められなかった
駆け出しの頃から 今でも変わらねぇアンダーグラウンド
あるぜ負けん気 言葉アレンジすることなく
TK da 黒ぶち 叩き割る火炎瓶
[TK da 黒ぶち]
Yo 確かにそう 弾けるだけじゃねぇ
俺も学んだぜこの短時間で
わかるぜ俺もその気持ちって訳じゃねぇ
俺は冷静になんて見れねぇんだ
起きる出来事すべてに意味があると思ってるからマイクを握ってる
それをただ単に代弁してくだけさ
経験その他諸々アルファ それにあるか分からねぇ
でも遥か彼方遠く見えるぜ いろんな希望
イマジン そこを大切にしてくる
ここにオマエに勝つって映像がアタマに浮かんでるか
分からねぇけどmicrophone握って飛ばしてくだけさ
おっとこれはマジで負けられねぇギリギリのところ
だけどちゃんと深めてく懐
オマエには負けねぇ それしか言えねぇ
だけどこのバイブスと言葉で
弾けるだけのrap 別にいいじゃねぇかそれでも
これが決勝 オマエとこんなバトルがしたかったぜ yo
間違いねぇぞ
概要
16小節3本
ビート: Bombrush! / STAY STRONG feat. NORIKIYO, SHINGO★西成 & DAG FORCE
勝者: TK da 黒ぶち
解説
THE罵倒2012 FINAL 輪入道 v.s. TK da 黒ぶち
今回はTHE罵倒2012から決勝の模様を取り上げたいと思います。
ご存知の通り今でも根強い人気がある、超がつくほどのベストバウトですね。
16小節3本ずつの計96小節、時間にして4分超という長丁場ではありますが、それを感じさせないぐらいに内容の詰まったバトルとなりました。
この試合、何がそんなに良いのかと言われれば「全て」としか答えようがなく、調子の良い輪入道と調子の良いTKが決勝でぶつかるということに加えて、シリアスで感動的なビートが見事にハマっていて、二人のアンサーの撃ち合いにさらに拍車をかけています。
また、16小節という点も良い方に作用していて、即興性の高さでプロップスのある両者にとっては、相手の言葉を噛み砕いた上でさらに言葉を詰め込んで打ち返していくのに都合がよかったように感じます。
そうした色々な要素を背景にして、この感動的なベストバウトが成立していたわけですね。ホント素晴らしいです。
それでは内容を見ていきましょう。
まずこちらは両者の1バース目冒頭からそれぞれのライン。
初対面ではないながら、まず自己紹介をもってくる輪入道に対して、完璧に呼応する形でそれに答えるTK。
そこからMCとしてスタートした時期の描写へ続き、両者の邂逅となった大会での記憶など、一気に話題が深化していく感じですね。
前哨戦という感じではなく、序盤から想いの強く入った全力のストーリーテリングになっていて、一気に試合に引き込まれていきます。
もうこの時点で私は輪入道にもTKにも感情移入していたのですが、そんな中で描写が具体的であればあるほど物語としてのリアリティが増していき、気持ちを揺さぶられていきました。
Rapのうまさに盛り上がるというよりは、ストーリーに感動するような感覚と言った方が適切かもしれません。試合前後のロッカールームなど、バックボーンとなる文脈も含めて高校サッカーや甲子園で心動かされるのに近いものがあります。
こちらも1バース目からの流れ。TKの方はバース中盤のアンサーで、上の輪入道のラインに対してプラスアルファを加えてやり返してます。リリカルでウィットを利かせた表現は非常にアガりますね。
そして2バース目にさらにウィットを利かせた輪入道、本当にこの辺りのやり取りは素晴らしいです。パンチラインを出せば何倍にもなって返ってくる感じで、一進一退のめちゃくちゃ白熱した試合展開になっています。
どちらも相手の言葉に冒頭ですぐに反応するのではなく、他の話題もしっかりとアンサーしていった上でのラインになっていて、二人とも熱くなりながらめちゃくちゃ脳が回ってます(笑)
自分のペースで、余裕をもったタイミングでアンサーを構築していける点は16小節ならではですね。
そしてこちらが上に続くTKのラインですが、この後半部分が個人的には非常に気に入ってます。
それまでの流れを受けて力を込めてスピットした一節になるのですが、ここがTK1バース目の中でバイブスが最もスパイクした瞬間になっていて、その内容や語感の良さから強烈な印象が残っています。
ちなみに少し分かりづらいですが、よくよく観るとこの辺りも対応関係にあるアンサーになっていると思います。
ちょっと小憎らしい言い方ですが、2007年のREPRESENT MC BATTLEで勝利した輪入道のラインをしっかりキャッチしている感じです。
こちらは輪入道2バース目、ラストのラインになるのですが、ここは大方の予測を裏切る話題の運び方になっていて、巧さが見えますね。
直後にはTKに「オマエの笑顔 バトル中じゃ絶対見たくねぇ」とやり返されてしまうわけですが、額に青筋立ててスピットするだけではない、輪入道のキャラクターがいい具合にrapに表現されているのではないかと思います。
また、これに対するTKもアンサーも伝わるものがありますね。輪入道とは対照的にrepすることを明確に打ち出していくのですが、ここに「らしさ」が詰まっているようで、私は非常に共感しました。
確かにTKは純粋にrapスキルも素晴らしいのですが、なんというかこういう庶民的なキャラクター、「草フリースタイラー」感のような主義や態度もプロップスを集める一因ではないかな、と思ってます。
その他にもグッとくるパンチラインも多く、特に「クロスカウンター」のところは高まったテンションや綺麗にまとまった押韻、文脈の前後関係など、見事にバシッとハマっていてお客さんも非常に沸いていました。
そして3本目。ここまで来るともうアンサーするのが当然かのようになっていて、完全に対話を成している感じですね。
ご覧の通り、過去駆け出しの頃の経験をニヒリズムを含んだ視点で振り返る輪入道に対して、現在進行中の経験を通して未来を想像していくTKという構図がかなり明確に現れているのが分かります。
自分の言葉に熱を込めて吐き出しているという点ではどちらも変わらないのですが、こうして対比してみると両者の考えや態度はかなり異なっていて、その中でも共有する経験をタネに対話を成立させているのが熱いですね。
そして何よりも、どちらにも感情移入できてしまうストーリーテリングの妙こそが、この試合をより感動的なものにしているのだと思います。
続いてこちらがTKの終盤から。輪入道のアンサーと、それを受け冒頭で吐いた自分の言葉を否定する力強いラインで、TKの中でなにかしらの変節、転回を迎えたことを感じさせるラインになっていて、この試合自体がもつストーリーに絶妙な味が加わっています。
双方リスペクトとdisが共存する中で思いの丈をぶつけ合ったスポ根的な試合となっているのですが、その内容で言うとrapのスキルやストーリー性など、全てが高い次元にある非常に感動的なものになっています。
トップオブザヘッドで思ったことをバンバンrapにしていく両者だからこそできたやり取りで、16小節を3回繰り返したとは思えないほどの密度の濃さになっています。
今後これ以上に心動かされるバトルがどこかで見れるかというと、ちょっと難しいかもしれませんね。それぐらいに奇跡的な一戦になっていると個人的には思います。
引用に告ぐ引用で、このエントリ自体も相当ボリュームが膨らんでしまいましたが、これでもまだまだ言い足りないことがたくさんあるぐらいです(笑)
そしてこのバトルを制したのはTK。本当に接戦で、ギリギリのシーソーゲームをものにしたという感じでした。
ちなみにこの大会、同年に開催予定だったUMB2012の本選チケットが懸かっていたのですが、すでに埼玉代表として出場が決まっていたTKが優勝者となったため、敗れた輪入道が罵倒枠として繰り上がっていくことになりました。
この罵倒2012、本試合の他にもNONKEY対GOLBY戦をはじめとして面白い試合がたくさんあるのですが、その中でもこの決勝は抜きん出て面白い戦いではないかと思います。
個人的にはこの一戦のためだけにDVDを入手してもいいぐらいです。値段も他大会に比べれば安い方だと思いますので、まだ見ていないという方は是非チェックしてみてください。