ムートン v.s. 輪入道
UMB2017 TCIY BEST8 ムートン v.s. 輪入道
今回はUMB2017 THE CHOICE IS YOURSからこちらのバトルをピックアップします。
ムートン対輪入道。誰もが待ち望んだ一戦ではないかと思いますが、そんな期待に違わぬ素晴らしい展開となったバトルです。
[ムートン]
出てきた本物 リスペクトしてるぜ
首を刈りたい 胸を借りたい
また歌いたい まだ繋ぎたい
コイツはドライアイ これを使いたい
Free 歌いたい
ドライヤー 狙い撃ったスナイパー
俺が通り魔 a.k.a またの名を容疑者
[輪入道]
もらいたいでもらえるほどは甘くない
吐いてる言葉 すべてがナマクラ
俺のrapでお客が騒ぐ番
Yeah 俺が切り裂くverse
負けられない戦い ここにある
俺は殺し合いしかしない
オマエのヤバさを伝えてみろ
[ムートン]
OK 乗った 俺はナマクラじゃねぇ
俺のマイクは忍刀
シット捌いて 捌いて白身魚
これヤバいから black to da hero
Tick tack sick black ジグザグ
パケを鳴らして 喉を枯らして
[輪入道]
いい仕込みしてるぜ
ネタでもオメーみたいに良い仕込みされたら ぶっ飛ぶだけ
オマエの店がありゃメシ食いに行きてぇ
ボトル無くなるまで飲んだるぜ
Yeah 俺の音楽性
この場で見せていくローカルで
磨き上げた培ったスキルで
DJ HONDAの音でfeel uh
[ムートン]
間違っちゃねぇが
俺がネタ帳? 偉そう べらぼう
貶そう wake up soul
オマエよりもヤバい世界観を描こう
炎はメラゾーマ
俺も尖ったまんま ほうかったまんま
地球がこんだけ丸いんだ
エンピツとB-BOY 死ぬまで尖ろうぜ
[輪入道]
俺らは尖ろうぜ ほら当然みんな言う
ここ証明 共鳴してるスキル上下
俺らはしてるここで表現
でもHipHopはやっぱ即興じゃねぇの?
俺はこだわるぜtop of the head
俺はネタは絶対仕込まねぇ
だけどdisってるワケじゃねぇ
[ムートン]
だから嫉妬してるわけじゃねぇ
仕込んでるわけじゃねぇ
だったら福島の白河市きてくれ
俺と仲間 俺の仲間こんぐらい出来るぜ
アンタのことも好きだ
これがwarriorでしょう
スルーパス 合わせろ周波数
[輪入道]
ここにJAG-MEなんの関係があんだよ?
オメーが仕込み刀って言ったんだろうが
どっちが仕込む?
俺は残す ちゃんとこの言葉 オマエの記憶
負けられない理由 死ぬほどある
だからいつものようにカマすrap
俺はやる 時間を俺にくれや
概要
8小節4本
ビート: 孫GONG / 鏡
勝者: なし(延長へ)
解説
UMB2017 TCIY BEST8 ムートン v.s. 輪入道
今回はUMB2017 THE CHOICE IS YOURSからこちらの一戦を取り上げます。
ムートン対輪入道という楽しみすぎる戦いですね。
ちなみにこの試合の前、輪入道は鳥取のJAKEとマッチアップしてなんと再々延長に及ぶ死闘を演じていました。その流れの中で今回の一戦となります。
それでは内容を見ていきましょう。
まず先攻はムートン。「出てきた本物 リスペクトしてるぜ」と相手を認めるところから始まります。
続くラインが「首を刈りたい 胸を借りたい」というものなのですが、ここは非常にうまい表現ですね。まったくの即興ということはないのでしょうが、同じ「かりたい」という言葉で重ねながら相手への敬意と戦う姿勢を両立させたシンプルな1小節になっている思います。
その後は自分のペースでバースを展開するムートンでしたが、それがまた技巧的でビートにガッチリとハマっています。最後の「俺が通り魔 a.k.a またの名を容疑者」なんて完全に音源で使うレベルの一節でしょう。
対して後攻の輪入道。「CIMAの後じゃオマエは霞むな」といきなり正面きったdisから幕開け。例え相手からリスペクトを表明されてもそこは輪入道で、少しもブレてません(笑)
また、そこから続くのはやや戯画化された調子のrapで、相手のムートンに触発されてか、輪入道にしては珍しく少し誇張気味な声色とスタイルでまとまったラインをキックしていく感じでした。
おそらく相手に歩調を合わせて試合の雰囲気作りをしていく意図があったものと思いますが、こうした序盤の展開は少し予想外でした。
そして2バース目。「オマエのヤバさを伝えてみろ」との輪入道に「OK 乗った」とすぐさま応えるムートン。
「俺はナマクラじゃねぇ」「忍刀」という入りから「白身魚」に至る着地まで、アンサーからストックへもっていくまでの流れが完璧に自然なムートン。さすが過ぎます。ビートや文脈にピッタリ寄せたままこの芸当ができるのだから本当に驚きですね。
そしてそこから続くのはムートン劇場とも言えるルーティーンの連続で、そのスムーズで隙のない質の高いバースに観客からも声が上がります。そのクオリティは輪入道にも「いい仕込みしてるぜ」と言わしめたほどで、これはもう最大級の賛辞と言っていいでしょう。
その輪入道。「いい仕込みしてる」ムートンへの称賛を惜しまず吐いていますが、「オマエの店がありゃメシ食いに行きてぇ」「ボトル無くなるまで飲んだるぜ」と、その上げ方がまたいいですね。まだ若いのになぜかオッさん臭の漂うライン(笑)
まだ20代なのにこんなセリフが似合うMC、いいですね。絶妙に彼のキャラが出ている感じです
対してムートン。「間違っちゃねぇが」と仕込みに関する指摘を受け止めた上、「ネタ帳?」「偉そう」と連続したライミングへつなげていきます。
そしてムートンが偉いのはその後に「オマエよりもヤバい世界観を描こう」というラインでしっかりと内容を持たせ、ただストックを披露するだに終わらないところで、こうしたターゲットとなる小節を挟むことでバースの構成に起伏も生まれつつ、また観客も置きざりにされずに済んでいる感じです。
当然ながら全体的にストックを多用していて、先の輪入道の指摘通りとなるわけですが、その繰り出すタイミングや内容、フロー、声質など、すべての要素が作用して非常にレベルの高いrapへと昇華している感じです。
そのクオリティは「フリースタイルの申し子」とまで言われる完全即興派の輪入道が認めるほどで、これはもうプロップスうなぎ上りなのも頷ける話ですね。
そしてバース最後の「エンピツとB-BOY 死ぬまで尖ろうぜ」という着地でも大きく声が上がり、半ば優位な形で2バース目を終えてます。
対して輪入道のターン。「俺らは尖ろうぜ」と愚直なまでに即興を通しつつ相手へのアンサーを仕掛けていく感じです。こちらもブレません。
そしてこの試合のハイライトのひとつが続くシーンで、「俺らはしてるここで表現」とそれまでのライミングを継続しつつ、「でもHipHopはやっぱ即興じゃねぇの? 俺はこだわるぜtop of the head」という非常に鋭いパンチラインを繰り出して、これにオーディエンスも大きく反応します。ここ素晴らしいですね。
熱を込もったラインで、自身のスタイルに対する信念がストレートに表現されつつ、文脈上の前後関係やライミングの精度、ビートの雰囲気などあらゆる点でピッタリとハマった一節になっている感じです。
バース最後に「だけどdisってるワケじゃねぇ」とフォローを入れていることからも、スタイルウォーズの中での自分の考え・主張を提示したに過ぎない、という感じなのだと思いますが、この辺りはただのdisり合いに発展して双方のスタイルが崩れるような試合にしたくない、という輪入道の意図も感じられますね。それだけムートンを認めているということなのだと思います。
そして最後のバース。先の輪入道に対して「仕込んでるわけじゃねぇ」とムートンはあくまでも反論。「俺と仲間 俺の仲間こんぐらい出来るぜ」とrepする地元に話題を広げていきます。
そこからJAG-MEの名前を出していきますが、これに輪入道は「ここになんの関係があんだよ?」とすかさず反論。ここはやや輪入道有利でしょうか。彼の返す言葉一切にはまったくブレがなく、その上でトップオブザヘッドを通しているのだから凄まじいです。
ちなみに終盤の「俺はLIVEがやりてぇんだ」というラインですが、今大会はBEST4以上まで勝ち進んだMCには同日にLIVEアクトを務める権利が与えられるというルールがあり、そのことについての言及となります。
あと一回勝ち進めばBEST4というところで、直球な思いがそのまま出たラインですね。
そんなわけで両者ともこれ以上ないほど見せ場を作りまくっていたドラマある一戦でしたが、結果は引き分け。延長突入です。
大方の予想通り、このバトルはめちゃくちゃ面白い一戦となりました。両者双方へのリスペクトをしっかりと言葉にしつつも、その上でスタイルの違いを強調して相手を上回ろうとする展開で、巧いrapの中にもそれぞれのキャラクターやバイブス、熱さがあり、見ていて入り込める内容になってますね。
個人的には文句なくベストバウトだと思います。もちろんムートンも大好きなのですが、このバトルでは輪入道スゴさを再認識させられた印象です。単純なrapの巧さというよりも、相手のスタイルを受け止める度量や懐の深さのようなものを感じますね。とにかく最高の一戦でした。
続く延長の試合は以下のリンクからぜひご覧ください。延長もかなり熱いです。
[UMB2017 TCIY] 輪入道 v.s. ムートン 延長
※ CIMAの後じゃオマエは霞むな
同大会出場MC。BEST8、本試合の前にふぁんく戦が行われた
※ JAG-MEって先輩よく知ってるじゃねぇか
福島出身のMC。UMB本選の常連で、特にUMB2013では輪入道とも対戦している。
※ 俺はLIVEがやりてぇんだ
同大会、BEST4まで進出したMCには同日のLIVEアクトの権利が付与されるルールとなっていた
お前の店があれば飯食いに行きてぇってのはその前のネタの仕込みと店の仕込みで意味が重なってるのかな?考えすぎか?w輪入道のLiveも見たかった!リリックありがとうございます!
> mol53 さん
コメントありがとうございます!
もちろんこの文脈の前後関係は関係あるのだと思ってます!
その意味でも即興の中でテーマが発散せずよくまとまったまま主張が前へと進んでいく輪入道素晴らしいな、と感じました。
記事中でもっと言及してもよかったかもしれませんね!
ありがとうございます!
この試合大好きです!!!!
延長と再延長もよろしくお願いします!!!!
> れんぽ さん
コメントありがとうございます!
もちろんです!続く試合も扱わせてもらう予定でいますー!
いつも拝見してます!
ふぁんくvsGIL延長、ふぁんくvsMAVELの解説みたいのですが、可能でしたらお願いします!
いつもありがとうございます!!
> tS さん
コメントありがとうございます!
また、リクエストもありがとうございます、ふぁんくのバトル面白いですよね!
輪入道の最後の言葉、俺はやる、時間を俺にくれや が自身の曲である、勝利していたらLIVEでやったであろう「俺はやる」にもかかっていると思われるんで最後まですごいですね
> mc さん
コメントありがとうございます!
文脈上まったく自然だったのであまり意識していませんでしたが、確かにおっしゃる通りですね!
ダブルミーニングになることで、この一節のメッセージは強さが変わってきますよね、ご指摘ありがとうございますー!