NAIKA MC v.s. ヤングたかじん
UMB2016 FINAL 東京代表 NAIKA MC v.s. 愛知代表 ヤングたかじん 延長
今回はこちらの一戦。UMB2016 決勝の延長戦で、大会を締めくくるラストの試合となります。
この記事は延長戦に関するものです。延長前の試合は下記をご覧ください。
[ヤングたかじん]
俺はホモみてぇなバトルは性に合わねぇんだけども
ウソはつけねぇ オマエのこともリスペクトしてるけど
足りない部分も俺には見えてる
バトルにばっかりうつつ抜かして 子作りにばっかりうつつ抜かしてる間に
作品で子どもを一切産めてねぇ
そんなんじゃダメだってここでハッキリ言っといてやるぜ
[NAIKA MC]
サンキューありがと それはDOTAMAにも言われた
ちゃんと書いてるよ 曲もある
けれども少子化貢献して その子どもをHipHopヘッズにしてHipHop増やすんだよ
これは作品よりも大事なことだ
命の重みといのちの値段って意味だぜ?
オマエ芸術家なら分かってんだろ?
そこら辺のアンサーはきっちり返しとく
[ヤングたかじん]
俺も子どももいるし 作品も書くし バトルもやるし
何から何まで全部やるし
「失くした者が這い上がるHipHop」 それも分かるけど
全部持ってるやつ さらに欲張る奴の名前 ・・・忘れた
だから俺はヤングたかじんだ
初登場で全部持っていく覚悟だ
[NAIKA MC]
そうか 全部持っていく覚悟か
ここが終わってもKoKがあるんだろ?
そっちで全部持っていきゃいいじゃねぇかよ
すべて持ってくヤツ 俺にもちょっとくれよ
「何ひとつうしなわず」なんてあんな格好いいセリフ吐きてぇ
失ったもんばかりだよ 失ったもんばっか数えてたらよ
ホントに欲しいもんがここにあったんだよ
[ヤングたかじん]
OK OK 欲しがってるのよく分かる
でも俺も喉から手が出るほど欲しい
なにせ この先 王の中の王を決めるんだ 統一してぇ
オマエに出る資格はねぇ
ここまでよく頑張った 十分ドラマチックだった
10回目 オマエに華を持たせる訳にはいかねぇって話だ
[NAIKA MC]
華を持たせて欲しいとは思わねぇ
なぜなら自分で獲るからだよ
その違いはデカいぜ? COOL CORE
ひたすら俺もオマエのこと愛してる
だが クールはいずれ熱によって溶けるってこと
句潤が教えてくれた
そしてニガリが教えてくれた
NAIKA MC 群馬の稲妻
[ヤングたかじん]
逆だよNAIKA クールは 根源だ
熱さってヤツはそのうち冷めちまう
冷めても続けんのがHipHopだろ
ただ熱ぃだけならガキでも出来る
オッサンの熱さってヤツもそのうち冷めちまう
俺は冷え切ってる だけど愛してる
だから辞めない 全部掴めるって訳よ
[NAIKA MC]
それはオマエだろうが
オッサンでも冷めない情熱を10年やってんだぜ?
これはホンモノだろ? オマエと俺で作り上げてるんだ 熱はあるだろ
オマエにも熱がある 最高だぜ ここで終わりにしておきてぇ
できればよ 呂布カルマとやりたかったんだよ
最後の最後でヤングたかじんじゃぶっちゃけゲンナリだ
概要
8小節4本
ビート: dj honda × BIG JOE / The Terminator
勝者: NAIKA MC
解説
UMB2016 FINAL 東京代表 NAIKA MC v.s. 愛知代表 ヤングたかじん 延長
UMB2016から決勝、ラストのバトルとなります。
本年のトーナメントはこの両者で頂点を争いますが、16小節2本で決着がつかずの延長戦となります。
前の戦いではお互いをリスペクトしつつ、それでも勝ちにこだわって罵り合うというスポ根的展開で、会場も大盛り上がりの非常に白熱したバトルとなっていました。やはりUMB決勝はこうでなくては。
マイメン同士でありながらスタイルや思想がまったく異なる二人の対戦であるがゆえの熱狂という感じで、個人的にはあの呂布カルマが「デレた」のが印象的でした。
そしてこの延長戦となりますが、先ほどは16小節2本だったところ、今回は8-4本が選択されます。ちなみにこのビート、前回大会のベスト8にて、NAIKAが京都代表の早雲と当たった際に使われたものと同一ですね。
延長戦の先攻はヤングたかじんからスタートです。
「ホモみてぇなバトルは性に合わねぇんだけども」と、前のバトルを振り返るラインから始まるのですが、相手へのリスペクトを改めて確認しつつ、「作品で子どもを一切産めてねぇ」などと純粋なバトルMCには手痛い一言を最初からぶつけていきます。
バトルに終始するばかりで制作活動にタッチしないMCを貶し倒すような、この辺りの言説は呂布カルマの時から変わらない主張ですね。今現在のNAIKA MCにこの誹りがどこまで当てはまるかは置くとして、ステージでのメッセージングそのものは一貫しています。
そしてそれを受けてのNAIKA MC。「少子化貢献して」さらに子どもをヘッズにすることでHipHopへ貢献するんだ、と正面から返さず、自分の有利に運ぶよううまく切り返してアンサーしています。また、続けて「これは作品よりも大事なことだ」と堂々と言い切ってしまう辺りが妙に説得力をもって聞こえてしまいます。
アーティスト単体で見ればヤングたかじんの方が正論ではありますが、シーン全体で考えるとNAIKAの物言いにも一理ある感じでしょうか。このテーマは以下のように、いくたびかシーンを襲った「冬の時代」に様々なMCに語られてきたテーマでもあり、シーンにとって共有知であることを期待しての発言だったのだと思います。(特にその後訪れた現下のバトルブームという文脈を考えると、当意即妙と言うべきアンサーと思える節もあります。NAIKAのこのラインは見かけ以上に深いかも!?)
対するヤングたかじん2バース目。NAIKA同様「子ども」も「バトル」も「作品」もすでにやっているというアンサーで前置きした上、「さらに欲張る奴の名前 ・・・忘れた」とのラインを返していきます。
少々野暮なようですが解説をさせてもらうと、ヤングたかじんの変名である「呂布カルマ」は、その名前から対戦相手に度々「欲張るな」という押韻をされるため、「欲張り」というワードがすでに「呂布カルマ」の枕言葉として機能しているわけです。
そして今大会はあくまで「ヤングたかじん」というMC名で出場しており、この決勝まで「呂布カルマ」の名前を禁句として戦ってきたヤングたかじんにとって、最も言ってはならない単語でありつつも、その名前を「欲張り」という語彙に絡めてオーディエンスに想起させるウィットの利いた面白いラインになっているわけですね。個人的にはこういうのもバトルの面白さの一つだと思ってます。そしてヤングたかじんやっぱりスゴい。
ただし実際のところ、会場はそこまで沸いていた様子ではなさそうでした。同大会中にMAC-T戦やその他のバトルで「呂布カルマの名前を出すな」と相手に注意する場面も散見されていたため、この辺りの事情は当日の会場も知らないはずがないのですが、ただただ瞬時に反応できなかっただけなのかもしれません。
さて、対して後攻のNAIKA。「全部持っていく覚悟だ」というヤングたかじんに「ここが終わってもKoKがあるんだろ?」「俺にもちょっとくれよ」と泣き落としのようなアンサーをしていきます。決勝でバチバチを通さずこういうトーンも自然にしてくる辺り、よくキャラが出ています。
前の試合でも解説しましたが、一貫して「過去の苦しい時代から現在のこの大舞台」という軸でストーリーテリングをする構図はこの延長でも変わらずですが、その中でもこの「失ったもんばっか数えてたらよ」「ホントに欲しいもんがここにあったんだよ」という2小節はとてもドラマがあると感じました。NAIKAは出し尽くした後の、こうした心情の吐露みたいな一節が妙に共感を呼ぶように思います。
一方でヤングたかじんの方もこのUMBチャンプの座を「俺も喉から手が出るほど欲しい」として譲りません。ここでいう「統一」とはUMB・KoKの両大会を制することなのですが、UMBとそこからの分離独立のような格好で今なお運営されるKingOfKingsとをあわせて優勝することで、運営サイドの政治的な動きをもねじ伏せて正真正銘実力で脚光を浴びることが可能になるのだからそれは譲れないわけですよね。
続いてNAIKA MC。話題を転じて、「クールはいずれ熱によって溶ける」とヤングたかじんの音源タイトルからもじったdisを展開していきますが、「句潤」や「ニガリ」はこの決勝までの戦った相手MCの名前で、ここでも過去から現在という軸がrapに現れていますね。ラストの「NAIKA MC 群馬の稲妻」はニガリの変名「赤い稲妻」のもじりですが、力も入りビートにもよくハマっていて、気持ちの良いラインになってます。
そして両者のラストバース。「クールは根源だ」と反論するヤングたかじん。「熱さってヤツはそのうち冷めちまう」「冷めても続けんのがHipHopだろ」など、これでもかとパンチライン級のアンサーを繰り出していくのですが強すぎでませんかこの人。変わったのは名前だけで中身は呂布カルマそのものという感じで、4小節目に入っても重たい言葉を吐き続けています。
個人的には「オッサンの熱さってヤツもそのうち冷めちまう」などをオーディエンスにイメージを与えるかなりエグいdisだと思いますが、ここまでくるともうプロップスなども影響してきてるかもしれず、どこまで会場に響いたかは定かではありません。
そしてNAIKA MCの後攻ですが、「俺は冷え切ってる だけど愛してる」というヤングたかじんのシーンへの想いを「それはオマエだろうが」と切り捨てます。ここもいいですが、その後の「オマエと俺で作り上げてるんだ 熱はあるだろ」という一節がなによりアガりました。
一見すると斜めからシーンを見ているように見えて、決勝でこんな熱いバトルを演じてしまうくらいにはシーンに入れ込んでいるヤングたかじん(呂布カルマ)、そんな姿を浮き彫りにするようなラインだと感じました。NAIKAならではな感じもしてキャラ勝ちしたと言えなくもないですが、決勝のステージに申し分のないドラマを提供してくれていますね。
試合の流れでいくと、ここまでですでにドラマは演じきっているように見えました。残りの「できれば呂布カルマやりたかったんだよ」という部分はNAIKA MCの偽らざる本心だと思いますが、これはオマケのような感じですね。バトルが一方的な状態であればまだしも、決勝戦として文句のつけようのない熱い試合展開ではなかったかと思います。名前はどうあれヤングたかじんのパフォーマンスは素晴らしいものでした。
そんなわけでこの決勝を制したのはNAIKA MC。つまりUMB2016を制したのはNAIKA MCということになりました。DVDをご覧頂くとわかるのですが、最後DOTAMAが乱入して号泣しながら抱きついてきたり、息子さんを抱えて優勝フリースタイルをしたりと、感動を誘う場面も見られました。
本選では2011に決勝で晋平太に破れて以来、例年本選までは出場を続けての栄冠ということになりますが、今年がラストと宣言していた中での優勝ということで、本当にドラマチックですね。
ちなみにNAIKAはシードからの開始ではありましたが、2回戦目でDOTAMA、3回戦目で要、BEST8で句潤う、BEST4でニガリ、そして決勝でヤングたかじんという結構な死線をくぐり抜けての優勝で、もう実力の証明として十分すぎるマッチアップの中を優勝しています。そして見る側としてはドラマあり白熱した展開ありのいいバトルを観ることができ、大満足の内容となりました。
最後になりましたが、優勝したNAIKA MCさん心からおめでとうございます!
今後のバトルや制作活動などでのますますの露出・活躍を期待して締めくくりたいと思います。
※ ホモみてぇなバトル
Disを飛ばさず、相手を褒めあうだけの馴れ合いと化した対戦を指す。/p>
※ DOTAMA
MC DOTAMA。同大会出場MC。2回戦にてNAIKA MCの前に敗退。/p>
※ 句潤
句潤。同大会出場MC。ベスト8にてNAIKA MCの前に敗退。/p>
※ ニガリ
MCニガリ。同大会出場MC。ベスト4にてNAIKA MCの前に敗退。/p>
呂布カルマの4バース目最後
【だから辞めない 全部掴めるって訳よ】
『全部掴める』が抜けてました!
これまでのバトルを締めくくる呂布らしいパンチラインだなぁと強く印象に残っています。
> 湯さん
コメントありがとうございます!
該当の箇所を修正しましたー!
本当にそうですね。自信たっぷりにこういうラインが出てくる辺りが彼らしいですよね。
欲張るやつの名前って誰のことなんだろうと気になってたんですが、ここにたどり着いてようやくわかりました。素晴らしい解説ですね。
某番組でも言っていた通り、後から文字にすると深読みせずにはいられない魅力が彼にはありますね。
> 通りすがり さん
コメントありがとうございます!
即興で吐き出された言葉の端々をあれこれするのは本来かなり無粋な行いではありますが、そうした「発見」をする人が一人でもいてくれると嬉しいです!
この試合のビート選択の時にwataraiさんがかけてたビート分かりますか??
コメントありがとうございます!
すみません、ちょっとわからないですがもしわかったら追記しておきます!