晋平太 v.s. サイプレス上野
戦極MC BATTLE 第5章 晋平太 v.s. サイプレス上野 のバトルです。
今回は戦極最初の黄金期と言っていい第5章からこちら。個人的にこのバトルは非常に好きで、何度も繰り返し見てしまいます。
[晋平太]
オマエrap始めてまだ半年?
もしくはヘタ過ぎるタカandトシ
もしくは南国気分
決めてるアロハシャツ着てる
アホなとこもさらけ出す
この場所で勝つ
二年間なにしてたのか?
俺の言葉を聞いてくれよパイセン
胸貸してくれ 嬉しいぜ対戦
[サイプレス上野]
Rap始めて半年
どころか17年以上経ちますけど
それが何か悪いこのアロハ?
Yo みんな 夏が来たさ
そんな感じ いつでもワクワク
楽しく俺は生きたく
オマエもちょっとこっち来たいと思っていない? マジで
[晋平太]
夏来てんのかな 寒いの俺だけ?
言葉軽いと思ってんの俺だけ?
俺とオマエがどれだけ 違うか
オマエはド下手で
17年 こっちは週7回やってるのさ
中途半端ならない
教えてやるぜ 鼻持ちならない
マイク持ちっつーか 太鼓持ちじゃない?
[サイプレス上野]
取りたいの いろんなとこに出てきて
やっとオマエ会えたよ
バトル ならオマエに負けることなんて
俺はハナから頭にないよ
やってやるぜマジでこれ男
一対一の勝負なら任せろ
ド下手でもマイク握ったら
いっちょまえの男になれる気がすんだろ
[晋平太]
もう一度 ド下手 ド下手 ド下手
だけど勝つのは俺だ俺だ俺だ
そこどけば どけば どけば
どけば どけば
I don’t give a fuckだ
土下座 勝てないぜforever
これがスキル rapがダサ過ぎる
それに尽きる すべて認めてるぜ
ならスキルを磨いてもう一度来な
[サイプレス上野]
スキル磨くなら時間はあるかもしれない
だけど 俺だ 俺だ
さっきも言ったなタカandトシ
オマエそうなん 大好きなのあの体
それとピッタリ似てるぜ体型
間違ってる
まるで体験 味あわせてやるよ
間違いなく決めるぜこの現場
[晋平太]
体型の話がしたいのか
外見の話がしたいのか
オマエはマイメンだから言うが
内面の話がしたいって2本目で
言ったけどそれがHipHopの基本でって
教えたけど韻踏んでって
それもチンプンカンプンで
4本目で体型の話って
先輩 ゴメンね罵って
でもバトルの現場のことをよく知って
[サイプレス上野]
4本目? けどさ
バトルたくさん出てるよ
3本目 晋平太 数も数えられねぇ
マジで オマエマジ残念です
さようなら けど今日も勝たなきゃいけないよ
体験の外見 中身詰めても
何も聞いてねぇヤツ
オマエマジ耳はどこに付いてんだ?
概要
8小節3本
勝者: 晋平太
解説
戦極MC BATTLE 第5章
晋平太 v.s. サイプレス上野 のバトルです。
今回はこちらの一戦。かなり古い大会ですが個人的に好きなバトルです。当時絶対的チャンピオンだった晋平太と、界隈で数少ない「音源アーティスト」であったサイプレス上野によるマッチアップです。
この二人、当時フリースタイルに限った実力では相当に差があるとみられていたものの、サ上がキャラを活かした盛り上げ方でかなり善戦してします。晋平太のエンジンをいい具合にかけてくれたことが幸いして非常に面白い展開となったような印象です。
それでは早速バトルを見ていきます。先攻は晋平太。「オマエrap始めてまだ半年?」「ヘタ過ぎる」などと、のっけから晋平太に良いように言われてしまいます。
サ上はそこらのMCよりも相当にキャリアの長いラッパーですが、こんなことを自分が言われたら確実に泣くか怒るかしてたんじゃないかと思います。直線的であるがゆえ、disとしてはかなり「効く」部類に入るんじゃないでしょうか。
また、最後の「パイセン」「対戦」などライミングを絡めたラインは意味のつながり的にも非常に綺麗で、その場の状況を踏まえつつまるで普通に話すように言葉を構成していく感じで、余裕すら感じる非常に高度な組み立て方ではないかと思います。この時期の晋平太強すぎです。
一方の後攻サイプレス上野。「半年どころか17年以上経ちますけど」や「なにが悪い?このアロハ」など、晋平太の一つ一つのラインを拾ってアンサーを展開していきます。ただしアンサーを返しつつ「みんな 夏が来たさ」と笑いを誘う盛り上げ方をしている辺りはサ上ならでは。よくキャラが出ています。
詰め込むライミングやrapとしての技巧などは晋平太と比べるまでもありませんが、客を巻き込むような展開で十分に場を盛り上げているのが印象的です。最も得意とするフィールドで勝負することで、晋平太を相手に十分に戦えているのではないでしょうか。
そして2バース目以降は晋平太による半ば一方的なアンサーが展開されていきます。「夏来てんのかな 寒いの俺だけ?」という切り返しを見せつつ、勢いを損なうことなく「オマエはド下手で」までライミングが持続するのがすごいです。
さらには2バース目ラストの「マイク持ちっつーか 太鼓持ちじゃない?」というラインも一ひねり加えた内容で素晴らしく、これがバースの最中に即興で出てくること自体が晋平太の強さを物語っていると思います。ライミングやビートキープ、即興性、話題の一貫性など、すべてが両立したかなりレベルの高いrapではないかと思います。
そして3バース目には「もう一度 ド下手 ド下手 ド下手」というくだりから「I don’t give a fuckだ」というつなぎを経て「forever」とつながるのですが、「ドヘタ」から最後の「フォエバ」まで非常にきれいなライミングが持続します。
単に押韻が整っているだけではなく、それをビートキープしつつフローを作りながら展開していくところに晋平太の本当のスゴさがあるのだと思います。この辺は本当に気持ちいいので是非映像で見て頂きたいところ。
そしてラストのバース4本目。「HipHopの基本でって」など同じ調子でシンプルなライミングに徹する代わり、相手のrapに関する攻撃を強めていく先攻晋平太。見事に揚げ足取りのようないやらしいdisになっていますが、ラストにさりげなく「先輩 ゴメンね罵って」と同じ調子でフォロー入れるなど、話題を完璧に掌握しつつバースへ落とし込んでいるのがわかります。
こうしたrapは思いついたことをその場でただ言うだけではなく、ある程度小節間のバランスやバース全体の整合を考慮しなければ絶対にできない芸当だと思います。
また、着地の内容も形式を守りつつ試合冒頭の流れを汲んだdisになっていて、巧さとメッセージングのインパクトが両立したものとなっています。ホントうまいですね。はっきり言って化け物級の強さです。
対して後攻のサ上。本数を間違えた晋平太に対して「数も数えられねぇ」とこちらも揚げ足取り。内容を注意深く聞いていたサ上は攻勢に出ます。しかしそこからさらに踏み込めればよかったのですが、攻め手を欠いたままバースが終了します。
そして結果はやはり晋平太の圧勝。技巧面ではともかく、内容面ではサ上が張り合える要素もいくつかあっただけにちょっともったいなかったですね。それにしてもこのバトルはシンプルなビートの上にどちらもキャラの出たrapを掛け合っていて、試合として非常に面白いものになっています。この一戦、私は本当に気に入ってます。
※ タカandトシ
日本のお笑い芸人。
※ 3本目
晋平太が先攻のため、ここではサ上の指摘が正解。